突然ですが、私は子供の頃から、ファットブルーム現象を起こしたチョコレートが好きでした。
ファットブルーム現象というのは、チョコレートが高温で溶けて、ふたたび固まると、中の脂肪分が分離してしまい、白く浮き出てしまう現象です。チョコレートのパッケージなんかにも、よく書いてありますね。
「これはファットブルーム現象といい、食べても問題はありませんが、風味は劣ります」のような文言です。
つまり、この現象を起こしているチョコレートは、本来の美味しさを損なっている状態らしいのですが、とにかく好きでした。
ガシガシした食感や、ボロボロ崩れていく感じが好きだったんですね。さらに言うと、誰も食べたがらない可哀想なチョコレート、というのが、センチメンタルをくすぐったのかもしれません。
そもそも、なんで、そんなに溶けたチョコばかり食べているのだ?という話です。
私の実家が農業を営んでいて、畑仕事のおやつにチョコレートを食べていたのです。そのチョコレートをどこに置いておくかというと、「そのへん」です。例えば木陰とか、トラックの荷台とか、そのへんです。
となると、当然のことですが、炎天にさらされたチョコレートは溶けます。日が暮れるとチョコレートは固まります。そんな流れで、ファットブルーム現象を起こしまくるのでした。
こんなファットブルームですが、バレンタインの手作りチョコレートにチャレンジする女の子たちにとっては天敵です。
余談なのですが、そのへんに売っているチョコレートを買ってきて、削って、溶かして、型に流し込むだけのものを「手作り」と言えるのか?という疑問を毎年、感じていました。
「カカオとか砂糖とか必要な材料を用意して作ってこその手作りでしょう?」
そんなことを言ってしまい、女の子たちから白い目で見られたこともありました。若気の至りでした。ちなみに私は女性なのですが、女心はちょっと難しいなと感じることが多々あります。
ファットブルームを起こさない、つまり、チョコレートが白くならないための方法として、重要なのが温度管理です。手作りチョコレートにチャレンジする場合はもちろん、普通にチョコレートを保管するのにも、高温は禁物です。
手作りチョコレートが白くならないようにするためには、「テンパリング」ということをやります。刻んだチョコレートを溶かし、いったん温度を下げて結晶化させ、再び温度を上げる、という手順を踏むことで、なめらかで美しい艶を持つ、美味しいチョコレートになるのです。
溶かし方としては、刻んだチョコレートを湯煎にかける方法、レンジで少しずつ加熱して溶かしていく方法があります。
冷ます場合も、冷水を使う方法や、大理石のプレートを使う方法があります。
どの方法をとるにしても、パッパとできることではありません。そして、この「テンパリング」が成功するか否かで、チョコレートの出来栄えに大きく差が出てきます。
「溶かしただけなんでしょう?」
こんなことを言ってしまった自分を、今になって反省するのでした。
編集部 みき